大口径のレンズ開発が盛んなころ、まだレンズの設計はコンピュータに拠らなかったのだろう、おそらくは焦点距離を50mmで作成したかったのだろうが多くの大口径レンズはバックフォーカスが稼げず55mmや58mmなどの焦点距離で開発・販売されていた。
またその実態はさらに長い焦点距離であったともいう。
果たしてこのレンズも55mmの焦点距離であるが、その後に50mmでF1.2のレンズがCanon FDレンズとして販売されている。
全群繰出しによるフォーカスは今は珍しいがフォーカスの位置に因らず安定した描画をしてくれる。
さて、実際に使ってみると、まずは手にしたときに感じるずっしりとした重さ。
如何にもガラスが目一杯詰まっている感じがする。
カメラにつけてファインダーをのぞくと強烈なボケと明るさを感じる。
フォーカスを合わせてみると、絞り開放ではとても薄い被写界深度のためかフォーカスリングが適度に重い。
描写は作例を見ていただくのがよいと思うが、良くも悪くも古き良き大口径標準レンズである。
また、古いレンズではあるが逆光でもなかなか味わい深い描写をしてくれる。
まだレンズ沼に嵌まり込んではいなかった昔に当時 新橋にあったカメラ屋でこのように言われた事がある。
「このレンズは絞りリングのAEポジションに“○”表記のものと“A”表記のものがある、“○”表記のほうがボケが綺麗なんだ」と。
この話が本当かどうかは分からないが手元にあるFD55mm F1.2 S.S.Cの絞りリングには“○”が表記されている。
このレンズはFL58mm F1.2、FD55mm F1.2
と進化し、このFD55mm F1.2 S.S.Cを経て
FD50mm F1.2、同L、NFDへと進化を続ける。
この絞りリングの“○”表記はFLから引継ぎ、FD55mm F1.2 S.S.Cの途中で“A”表記に変わって行く様である。
バリエーションにAL、後にASPHERICALがある、らしい。
レンズの後玉は内径ぎりぎりまで使ってあり眺めているだけで惚れ惚れする。
なお、レンズフードだが入手には苦労した。
レンズフード自体はばよねっと式で使い勝手はよいが、手元にあるフードはバヨネットが緩くなってしまっている。
内側は植毛してあり効果も十分だ。
発売年月 1973年3月
フィルター径 58mm
レンズ構成 5群7枚
絞り羽根枚数 8枚
最小絞り 16
最短撮影距離 0.6m
最大撮影倍率 0.109倍
外形寸法 Φ75.8mm×52.5mm
質量 565g
発売時価格 50,000円